十一面観音菩薩のルーツ探索です。「和辻哲郎」の古寺巡礼と一緒にお読み下さい。
目次
1 十一面観音とは2. 国宝十一面観音 古寺巡礼(1)渡岸寺 どうがんじ
(2)聖林寺 しょうりんじ
(3)法華寺、 ほっけじ
(4)室生寺 むろおじ
(5)観音寺 かんのんじ
(6)道明寺 どうみょうじ
3.渡岸寺十一面観音のルーツ考察
4..敦煌莫高窟の観音
内容
1.十一面観音菩薩とは
十一観音の頭上面の意味は次のようである
本面-----菩薩本来の慈悲の相
頂上仏面------究極の理想としての悟りの相
化仏(阿弥陀)---十一面観音が阿弥陀仏の慈悲の心を実践する菩薩であることを示す
菩薩面--------善い衆生を見て、慈悲の心をもって楽を施す
瞋怒面--------悪い衆生を見て、怒りをもって仏道に入らせる
牙上出面-----清らかな行いの者を見て、讃嘆して仏道を勧める
大笑面-------善悪雑穢の者を見て、悪を改め、仏道に導く
このうち、化仏は菩薩であることを示すもので、菩薩全般にあるので、十一面固有のものではない。十一面観音信仰として天平時代から連綿として続いているものに、東大寺の修二会(すなわちお水取り)がある。いまでは春を呼ぶ風物詩として有名だが、「十一面悔過」という、罪を懺悔し果報を願う修法である。
奈良にお住まいのT氏からのE-mailによりますと、以下のように感想を述べられている。
まさに、経典は仏菩薩の形造を丹念に描写している。
cf.仏像の種類
国宝十一面観音菩薩像は全国で6体、すべて近畿地方に分布しており、古代史を勉強するに最適である。
滋賀県--渡岸寺(伊香郡高月町)
奈良県--聖林寺(桜井市)、法華寺(奈良市法華寺町)、室生寺(宇陀郡室生村)
京都府--観音寺(綴喜郡田辺町)
大阪府--道明寺(藤井寺市)
(1)渡岸寺 どうがんじ
何故に湖北の寒村にかと思うが、西は琵琶湖に開けて明るい。古くは博多-神戸-大阪-大津を結ぶ古代水路が辿れるが、さらに日本海ルートで大陸との交通もあったと思うと心が弾む。観音は無住の寺、渡岸寺本堂横の観音堂に安置されている。入れば至近距離で、正面からだけでなく背面からも観音を拝めることは嬉しい。彫刻として至高なの言うまでもない。ほのかな明かりの中、土地の古老による説明も風情がある。
(2)聖林寺、しょうりんじ
桜井駅の南約2km、多武峰への道沿い。橿原、明日香にも近く、古代史では話題を事欠かないところ。和辻哲郎「古寺巡礼」の頃は、奈良博物館の中に安置されていた。彼は「これを三月堂のような建築の中に安置して、周囲の美しさに釣り合わせたならば、あのいきいきとした豊穣さは一層輝いて見えるだろう」と書いている。現在は、本堂よこの観音堂で、明るいガラス越しに拝む。
(3)法華寺、 ほっけじ
平城京跡の東、約0.5km。我が子基皇子を満一歳前に失い、また天然痘で兄弟の藤原四卿を失った光明皇后の悲しみを秘めた尼寺。光明皇后をモデルにしたか?11面観音。和辻哲郎「古寺巡礼」には、カラ風呂-光明皇后施浴の伝説、彫刻のモデル伝説など、彼の洞察が深い。
(4)室生寺 むろおじ
6寺の中では、最も山奥の密教寺院。宇陀にあり、女人高野で有名、仏像のほか、国宝の五重塔も見ておきたい。ここ宇陀という地方も、熊野から橿原への古代ルートに近い。仏像は当時のまま金堂の大伽藍に収まっているのは、深山幽谷の地理条件が幸いしたかと思う。本尊釈迦如来像をはじめとして見ごたえがある。
(5)観音寺 かんのんじ
奈良山を超えて、木津川に抜ける道は古代からの道。木津川を少し下った所、それに流れ込む普賢寺川の傍。観音菩薩はひっそり本堂の中に。薄暗い本堂のなかで、灯明だけで観音を拝めるのは至上の時か。往時の賑わいは、ただ普賢寺川の流れのみ知る。
( 6)道明寺 どうみょうじ
道明寺は大和川と石川の合流点付近にある。この辺りは飛鳥、白鳳、奈良時代にかけて、多くの古代寺院が建立されたと言う。船では難波津から大和川を溯り、陸上では難波から「大津道」をへて河内飛鳥に通じる交通の要所である。石川の西、藤井寺、羽曳野市には古墳群。石川の東、飛鳥川をさかのぼれば、近つ飛鳥等、遺跡も多い。
3.渡岸寺一面観音のルーツ考察
「官能の享楽を捨離して、山中の僧院に真理と解脱を追求する出家者が、何故に日夜この画にしたしまなくてはならなかったのか」
また、十一面観音の頭上面について「頭上の面はただ宝冠のごとく見えさえすればいい。」とあるが、この十一面観音の頭上面は宝冠ごとくではなく、それこそ肉体の一部して彫刻されたもので、そこに「超人らしさと人間らしさとの結合」があると思う。
詳しくは、以下をクリックして下さい。
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続いて、渡岸寺十一面観音像のルーツ考察にあたると共に、国宝に指定されている十一面観音計六体の古寺を巡礼し、その印象記を書きとめることにした。その切り口としては、十一面観音像の造形的な印象、古寺に関する古代史探求や古寺を取り巻く周自然等の考察をねらった。
まだまだ未完成なところがあり、今後の勉学の励みとしたい。
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十一面観音---------------- 井上靖 著---平凡社
日本の美術 4 第311号十一面観音 千手観音-- 副島弘通-- 至文堂 -
仏像 種類とかたち 観音様とは---高月町観音の里歴史民俗資料館
女人高野 室生寺
古寺巡礼 ------------------和辻 哲郎 著 --岩波文庫
十一面観音の旅 - -----------丸山 尚一 新潮社
仏像巡礼事典-------------- 久野 健 編 山川出版